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東京地方裁判所 平成10年(ワ)5448号 判決 1999年12月24日

原告 A野太郎

<他16名>

右訴訟代理人弁護士 中根宏

同 亀井正照

被告 浮山町会会長こと 高木吉太郎

右訴訟代理人弁護士 宮寺利幸

同 安西義明

主文

一  原告らの被告に対する債務不存在確認請求に係る訴えをいずれも却下する。

二  原告B山春子、原告C川一郎、原告D原夏子、原告E田二郎、原告A野太郎、原告E野三郎及び原告A原四郎の被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告らの被告に対する浮山町別荘管理費月額金四〇〇〇円の債務の存在しないことを確認する。

2  被告は、原告B山春子、原告C川一郎、原告D原夏子、原告E田二郎、原告A野太郎、原告E野三郎及び原告A原四郎に対し、別紙図面記載の三四か所に設置した「管理費長期滞納者一覧表」と題する各立看板を撤去せよ。

3  被告は、原告B山春子、原告C川一郎、原告D原夏子、原告E田二郎、原告A野太郎、原告E野三郎及び原告A原四郎それぞれに対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

本件訴えをいずれも却下する。

2  本案の答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、静岡県伊東市浮山町所在の別荘地(浮山温泉郷別荘地。以下「本件別荘地」という。)に別荘を所有する者である。

2  被告は、浮山町会会長と称している者である。

3  被告は、原告らに対し、本件別荘地の管理費として、それぞれ月額金四〇〇〇円の支払を請求している。

しかし、浮山町会なる法人は存在せず、原告らが浮山町会に加入したことはないし、原告らは被告との間で管理委託契約を締結していない。

4(一)  被告は、平成九年一二月ころ、本件別荘地内の別紙図面記載の三四か所に管理費長期滞納者一覧表と題する立看板(以下「本件立看板」という。)を設置し、原告B山春子、同C川一郎、同D原夏子、同E田二郎、同A野太郎、同E野三郎及び同A原四郎(以下「原告B山ら」という。)の地区番、氏名、管理費、未納開始月及び滞納期間を掲示した。

(二) 被告は、現に本件立看板を設置している。

(三) 本件立看板は、一般公衆が自由に通行できる場所に三四か所設置され、原告B山らが本来管理費を負担していないにもかかわらず、管理費を相当期間滞納しているかのような印象を不特定多数の者に抱かせるもので、これを設置した被告は、相当の社会的地位を有する原告B山らの社会的評価を低下させ、その名誉を毀損したものである。

本件立看板の設置により原告B山らが被った精神的苦痛に対する慰謝料は、各自金一〇〇万円を下らない。

5  よって、原告らは、被告に対し、本件別荘地の管理費月額四〇〇〇円の支払債務の存在しないことの確認を求め、また、原告B山らは、所有権又は人格権に基づく妨害排除として本件立看板の撤去並びに不法行為に基づく損害賠償としてそれぞれ慰謝料金一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成一〇年三月二四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  被告の本案前の主張

1  以下に述べるとおり、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)六五条に定める団地管理組合として「浮山町会」が存在する。被告は、浮山町会の役員(会長)の地位にある者である。

(一) 同条が適用される要件は、団地があり、そこに数棟の建物が存在し所有者がいること及びその団地内の土地又は附属施設が団地建物所有者の共有に属することである。団地とは、数棟の建物がそれらが建っている土地の区域内において土地又は附属施設を共有することによって関係付けられることであり、共有に属するとは、数棟の建物が土地又は附属施設に関する権利を準共有している場合を含む。

(二) 右要件にいう「団地建物所有者」に関連して、原告らは、浮山町会が土地所有者で構成される団体であり、同条所定の団体ではないと主張する。しかし、浮山町会は、建物所有者を中心として構成される団体である。確かに、浮山町会の現行会則は、「土地」所有者を会員としているが、本件別荘地では、昭和四〇年代以降、土地分譲に伴って建物が建ち、数棟の一戸建て建物が建てられ、昭和四六年の浮山町会発足当初の会則では、浮山町会は「建物所有者」で構成されていたところ、昭和五五年ころ建物所有者ではない管理人、賃借人等が総会に出席して混乱が生じ、これを防ぐために、表示上「土地」所有者で構成する旨会則を改訂したという経緯があるにすぎず、構成員の実体に変化があったわけではなく、その構成員は建物所有者である。土地のみの所有者に対しては団地管理組合の拘束力(規約、集会の決議の効力等)が及ばない。

(三) そして、分譲業者が本件別荘地の各区画を分譲する際、本件別荘地の通行等の用に供するため道路を作り、土地所有者のために通行地役権を設定したこと及び本件別荘地では土地購入後に必ず建物を建てることとされ、土地所有者が建物を所有することから、土地所有者の通行地役権を建物所有者も享有し、仮に建物所有者が通行地役権を有しないとしても、本件別荘地の分譲状況から、建物所有者は道路の使用貸借に基づく通行権を有している。

また、建物所有者は本件別荘地の管理事務所の土地建物、街路灯、案内板等を共有している。

(四) したがって、浮山町会は、区分所有法上の団地管理組合に該当する。

2  浮山町会は、二五年以上にわたり管理事務所を有し、職員を雇用して、本件別荘地の道路、共同利用設備等の管理業務を行い、構成員の変動にかかわらず団体が存続し、会則を制定し、同会則において代表の方法、総会の招集・運営、会計等団体としての主要な点が確定しており、実際、平成九年六月二一日の定期総会には五六一名が出席しているので(委任状出席五一五名、本人出席四六名)、権利能力なき社団に該当する。

3  したがって、本件各訴えは、当事者適格がない者を被告とするものであるから、いずれも不適法である。

三  被告の本案前の主張に対する原告らの答弁

被告は、浮山町会会長在任中に有限会社リフトビル(本件別荘地の建物所有者)の代表取締役の資格を喪失した期間があることなどから明らかなように、浮山町会は建物所有者の団体であるとはいえない。また、本件別荘地の建物所有者は、通行地役権を共有していない。したがって、浮山町会は、団地管理組合には該当しない。

しかも、原告らが本件別荘地の七四五区画の所有者に調査を行ったところ、浮山町会に加入している旨回答したのは平成一〇年六月三日現在四二名にすぎず、同月二六日に開催された会員総会には十数名しか出席しなかったのであるから、浮山町会は権利能力なき社団の実体を有していない。

四  請求原因に対する認否、被告の反論

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3の前段は認めるが、後段は否認する。被告は、浮山町会会長として会則に基づき管理費の請求を行っているもので、被告個人として請求しているものではない。

4(一)  同4(一)は認める。被告は、浮山町会の会則及び役員会の決定に基づき、浮山町会会長として本件立看板を設置したもので、被告個人として設置したものではない。

(二) 同4(二)は否認する。本件立看板は、平成一〇年一二月三日、撤去された。

(三) 同4(三)は否認する。本件立看板は、別荘地関係者に対してのみ知りうる状態で、本件別荘地のゴミステーションに設置されたので、不特定多数者に対して伝播することなく、公然性がない。しかも、団地建物所有者は共有部分の負担に任じ(区分所有法六六条、一九条)、管理に関する事項は集会の決議で決するところ(同法一八条)、浮山町会では、区分所有法上の集会に当たる総会が当初から開かれて予算案の審議、決算案の承認が行われ、本件別荘地の道路その他の管理に要する管理費の決定、改訂が審議され、可決されているので、団地建物所有者である原告らは集会で定められた管理費を支払う義務がある。被告は、会則に基づき浮山町会の供給するサービスを停止する旨を原告ら管理費滞納者に対して平成九年一二月一日付けで通知し、なおも滞納する者につき、同月一〇日ころ本件立看板を設置したものであって、正当な管理行為の一環として本件立看板の設置を行ったものである。

理由

一  被告の本案前の主張について判断する。

1  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件別荘地は総面積一〇二万四七九三平方メートル(開発当時)の広大な地域である。殖産住宅相互株式会社(以下「殖産住宅」という。)は、昭和四〇年代から本件別荘地を開発及び造成するにあたり、別荘地として区画整理(現在の区画総数八三四区画)及び各区画に通じる道路整備(全長は約一五キロメートル、面積は約一〇万平方メートル)をし、右道路の所有権を留保した上で、各区画を分譲した。殖産土地相互株式会社は、殖産住宅から委託を受けて本件別荘地の販売に従事したが、その際、土地購入者との間において、売買契約後一定期間内に必ず建物を建築すること及びこれに違反した場合には契約解除、違約金の支払い、買戻権行使による所有権喪失が合意された。分譲後、約定どおり順次建物が建築され、現在は約七七〇棟の一戸建て建物が建築されている。

(二)  本件別荘地には、一般公道以外に、殖産住宅所有の道路があるほか、街灯等の諸設備もある。浮山町会は、かかる諸設備の管理のために、昭和四六年一〇月八日、殖産住宅から本件別荘地の道路の管理権限の移管及び管理事務所の贈与を内容とする協約書を交わして設立され、昭和四七年、協約書に基づき、当時の浮山町会会長名義で管理事務所の土地建物を取得し、道路及び設備等の管理を開始するに至った。

(三)  浮山町会は、昭和四六年に会則を作成し、その一条に「本会は浮山町に別荘を所有する個人並に法人を以て組織し、一戸を以て一会員とす」と定めていたが、昭和四九年に「別荘を所有する」とあるのを「家屋を所有する」と表現を改めた。更に、昭和五五年には、従前、家屋の所有者でない管理人や家屋賃借人が総会に出席して混乱する事態が生じていたので、これを防ぐため、「土地を所有する」に改訂された。

(四)  本件別荘地の建物所有者は、本件別荘地内の道路(殖産住宅所有に係る私道、以下同じ。)の通行地役権、管理事務所の土地建物及び街路灯合計三四〇本等を共有している。

(五)  浮山町会は、昭和四七年以降、毎年、総会を開き、会則の改訂、予算案の審議、決算の承認等の諸手続を行い、会則や総会の決定に基づき、本件別荘地内の道路の管理、補修、街路灯設置その他の管理業務を行ってきた。すなわち、浮山町会は、本件別荘地の建物所有者を会員(平成九年六月二一日現在の会員数は七七一名)として組織され、自然環境保護と諸施設の有効利用促進を図ることなどを目的として共有部分等の管理運営を行っている。そして、浮山町会は、会長、副会長、常任、会計等の役員、ほかに監査役を置き、会長が会を代表し、総会を招集し、会務を統理している。定例総会が毎年六月ころに開催されて予算、収支決算、財産目録について承認するほか、総会は事業報告、事業計画、会則の改正、役員の選任についての承認等の事項を審議し、役員会は、ガス・水道等の料金等に関わる事項、臨時総会の開催等を決定し、総会及び役員会の決議はいずれも出席者の過半数によっている。平成九年六月の定例総会には五六一名が出席した(委任状出席五一五名、本人出席四六名)。本件当時の会則は、会員は一区画につき管理費として月四〇〇〇円を負担する旨定め、昭和四六年当時の会則は金額は明示していないものの、同旨の規定を定めていた。また会則は、役員会の決定に基づき、管理費の中から自主防災会、行政協力委員会、町内親睦会等に対して交付金を支給することができる旨を定め、これに基づきその支給がされている。会計年度は毎年四月一日に始まり翌年三月三一日に終わるものとされ、監査役は監査意見を提出して、会計が会計全般の責任を負い、定例総会で決算報告している。

2  以上の事実に基づき判断するに、右1(一)ないし(四)によれば、本件別荘地には約七七〇戸の建物が存在し、かつ、右建物所有者が本件別荘地内の道路の通行地役権及び管理事務所の土地建物等を共有することから、本件は、区分所有法六五条所定の「一団地内に数棟の建物があって、その団地内の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)がこれらの建物の所有者の共有に属する場合」に該当するものというべきであって、浮山町会は、同条の予定する団地管理組合に該当するとみるのが相当である。

そして、右1(五)の事実も考慮すると、団地管理組合である浮山町会は、本件別荘地の建物所有者を当然に会員として組織し、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、会則を制定し、その会則において代表の方法、総会の運営、会計等団体としての主要な点が確定しているから、いわゆる権利能力なき社団と認めるのが相当である。

3  原告らは、被告が本件別荘地の建物所有者である有限会社リフトビルの代表取締役という資格により浮山町会会員となり得る者であるところ、被告が浮山町会会長在任中に有限会社リフトビルの代表取締役を辞任し、会員の資格を喪失した期間があることから、浮山町会が建物所有者の団体であることに疑問がある旨主張する。なるほど、法人会員の代表者が資格を喪失しながら、長期間役員としてとどまることは一般的には相当ではないといえなくもないが、仮に役員選任に違法があったとしても、団地管理組合の成立それ自体が違法となるものと解するのは相当ではなく、結局は浮山町会の内部問題に止まるものというべきであり、会長選任は会則七条二項により総会の承認を得ているので、団地管理組合の成立、存続に影響はないと解すべきである。

また、原告らは、本件別荘地の建物所有者は通行地役権を共有しない旨主張する。しかしながら、一定区域の土地所有者が区画割りした上、各区画を分譲し、併せて分譲地から公道へ出るため、あるいは分譲地相互間の往来のための道路を設け、その部分の所有権を自らに留保した場合には、特段の事情のない限り、各分譲地のために所有権を留保した道路部分に通行地役権を黙示的に設定したとみるのが相当であるところ、本件別荘地では、右1(一)のとおり殖産住宅が区画割りをし、各区画に通じる道路を整備して所有し、分譲に際して所有権を留保していたものと認められるから(本件において、右特段の事情も認められない。)、各分譲地のために道路部分に黙示に通行地役権を設定したと認められ、さらに各分譲地には右1(一)のとおり建物が建築されたのであるから、道路の通行地役権は建物所有者全員の共有(準共有)に属すると解すべきである。

4  したがって、管理費支払債務の存否については権利能力なき社団である浮山町会を当事者として争うべきであり、本件各訴えのうち、管理費の債務不存在確認請求に係る各訴えは、当事者適格がない者を被告とするものであって、不適法である。

二  次に、原告B山らの本件立看板の撤去請求について判断する。

1  請求原因4(一)は当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》によれば、本件立看板は平成一〇年一二月三日に撤去されたことが認められ、請求原因4(二)を認めることはできない。

3  そうすると、本件立看板の撤去を求める原告B山らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三  原告B山らの損害賠償請求について判断する。

1  まず、被告は、本件立看板の設置は浮山町会会長として行ったものであるから、被告個人には責任がない旨主張する。しかし、法人が代表機関の行った行為につき不法行為責任を負うときは代表機関も個人として不法行為責任を負うことは免れがたいのであって、権利能力なき社団である浮山町会会長の被告が不法行為責任を負う場合があるのも当然のことであり、この点に関する被告の右主張は理由がない。

2  争いのない事実(請求原因1及び4(一))に加えて、《証拠省略》を総合すれば、請求原因4(三)について、次の事実が認められる。

(一)  原告B山らは浮山町に別荘を所有し、前記一2のとおり右事実により当然に団地管理組合である浮山町会の構成員となる。被告は浮山町会の会長である。

浮山町会は、昭和四六年設立以後、本件別荘地の建物所有者を会員とし、本件別荘地内の道路の管理、補修、街路灯の設置その他の管理業務を行い、これに要する管理費を徴収してきたものであり、住民組織である自治会、町内親睦会とはその性質を異にする。本件別荘地には、かかる浮山町会を批判するグループが存在し、あるグループは、浮山町会は建物所有者以外の建物利用者等を排除するとして新たに住民組織の結成を準備し、また、原告B山らを含むグループは、平成五年ころから浮山町会の経理、収支等が不明朗であるとして経理や収支の明細の公開等の健全化を目指し「浮山を明るくする会」を結成した。

(二)  浮山町会は、会則三条で、会員に管理費の納入義務を定め、管理費滞納者に対しては、毎月管理費請求書を送付し、管理費を滞納していること及び滞納額等を通知していた。管理費の納入については、長期の滞納者が存在し、平成七年六月の総会において、出席者から「本日出席者の中に二〇年以上にわたり管理費を滞納している人が三、四人いるが公正な納付を願いたい。」、「管理費を納める会員と納めない会員との間に不公平感がある。」、「管理費の滞納者は氏名を公表すべきだ。」などの意見が相次ぎ、さらに、管理費滞納者に対して氏名発表も含め徹底追及するとの件が緊急動議として提案されたため、その取り扱いを役員会に一任することが可決された。そこで、役員会は、右問題につき検討し、平成九年一〇月の役員会で、会則三条四項の規定の適用によるサービス停止を決定した。右条項は、管理費を三年以上滞納し、納入に応じない会員及びその関係者は、浮山町会が行う会員へのサービスの全てを受けることができないものとする旨規定する。浮山町会は、右役員会の決定に基づき、同年一二月一日付で、「浮山町会会長高木吉太郎」名義の通知書により、原告B山らに対し、今後は会則三条の適用によりサービスを停止されること、同月一〇日をもって、滞納者の氏名を始め、滞納月数、滞納金額等を公表すること及び支払の意思があれば公表等は中止することを通知した。右通知後も、原告B山らから、管理費の納入や支払の意思ある旨の連絡はなかった。

(三)  そこで、浮山町会は、平成九年一二月一〇日ころ、原告B山らにつきサービスが停止されたことを原告B山らの関係者(来訪者など)に知らせるべく、別紙図面記載の三四か所に、長期滞納者に関し(滞納期間二三年以上の者三名、九年ないし二二年に及ぶ者六名)、管理費長期滞納者一覧表と題し、原告B山らの所有する別荘の区番、原告B山らの氏名、月額の管理費四〇〇〇円、未納開始月及び滞納期間を一覧表にして、本件立看板を設置した。そして、原告E田については、平成一〇年四月二日に管理費として四〇〇〇円の入金があったので、浮山町会は、管理費の支払意思があると判断し、同月二八日、本件立看板からその氏名を削除した新たな立看板に替えた。そして、被告は、同年一二月三日、立看板を全て撤去した。

本件立看板の設置場所は、本件別荘地の道路沿いで、大半がゴミステーションの付近であった。本件別荘地内の道路は、外部公道と接する地点に検問所等がなく、外部の通行人や車両が本件別荘地へ出入りすることは可能であり、現に釣場であるおおなだ海岸には外部者が訪れている。

(四)  なお、前記のとおり、浮山町会は区分所有法上の団地管理組合に該当するので、団地建物所有者は当然にその団体的拘束に服し、共有部分の負担に任ずることになり(同法六六条、一九条)、管理に関する事項は集会の決議で決すべきところ(同法六六条、一八条)、本件別荘地内の道路その他の管理に要する管理費の決定、改訂について右集会に該当する総会で審議、可決されているので、団地建物所有者である原告B山らは管理費を支払う法律上の義務がある。

3  そこで、本件立看板の設置が原告B山らの名誉を害する不法行為になるか否かについて検討する。

まず、本件立看板の文言及びその記載内容は、右2(二)によれば、単に原告B山らが管理費を滞納している事実及びその滞納期間等を摘示したもので、右2(四)のとおり、原告B山らには管理費の支払義務があるので、その内容は虚偽ではない。次に、浮山町会は、右2(二)によれば、総会における会員の発議により、総会の決議に基づき役員会の決議を経た上で会則の適用を決定し、その後、滞納金額等を公表すること及び管理費納入の意思があれば公表を控える旨を原告B山らに通知し、本件立看板設置前に一応の手段を講じている。そして、右2(一)及び(三)によれば、原告B山らの「浮山を明るくする会」が浮山町会を批判してそのメンバーが管理費を滞納していること及び本件立看板は三四か所にもわたって設置され、本件別荘地に住民以外の者も出入りできるため、住民以外の者も原告B山らが管理費を滞納している事実を容易に知り得る状態にあったという事情はあるが、浮山町会としては、管理費を支払っている会員との間の公平を図るべく、原告B山らにつきサービスが停止されたことを関係者(来訪者など)に知らせ、ゴミステーションの利用等浮山町会が提供するサービスを利用させないようにするために、本件立看板を、特にその大半をゴミステーション付近に設置したものであり、公表という措置そのものがもつ制裁的効果はあるとしても、ことさら不当な目的をもって設置したものとまではいえない。また、本件立看板が一年以上設置されたのは、原告B山らが依然として管理費を支払おうとしないためであり、浮山町会は、管理費を一部でも支払えば氏名を削除するという対応をとっていたものである。

このように、本件立看板の設置に至るまでの経緯、その文言、内容、設置状況、設置の動機、目的、設置する際に採られた手続等に照らすと、本件立看板の設置行為は、管理費未納会員に対する措置としてやや穏当さを欠くきらいがないではないが、本件別荘地の管理のために必要な管理費の支払を長期間怠る原告B山らに対し、会則を適用してサービスの提供を中止する旨伝え、ひいては管理費の支払を促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず、原告B山らの名誉を害する不法行為にはならないものと解するのが相当である。

4  したがって、原告B山らの被告に対する損害賠償請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がない。

四  よって、原告らの被告に対する債務不存在確認請求に係る訴えはいずれも不適法としてこれを却下し、原告B山らの被告に対するその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、訴訟費用の負担については民訴法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小磯武男 裁判官 太田晃詳 國屋昭子)

<以下省略>

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